蔵谷行場の白い蟹

蔵谷行場の白い蟹

徳島新聞Web 阿波の民話より

とんと昔(むかし)、あったと。

箸蔵山(はしくらやま)には有名(ゆうめい)な箸蔵寺(はしくらじ)があるんで、弘法大師(こうぼうだいし)や修行(しゅぎょう)にやってきた坊(ぼう)さんの話(はなし)がようけある。また、山(やま)のあっちこっちにも行場(ぎょうば)があって、ほこで修行(しゅぎょう)しよるんをよう見(み)かけた。

蔵谷行場(くらたにぎょうば)のある谷(たに)には昔(むかし)から白(しろ)い蟹(かに)が住(す)んどったそうな。土地(とち)のもんはこの蟹(かに)は神(かみ)さんのお使(つか)いじゃちゅうて食(た)べるもんはおらなんだ。

ある日(ひ)、よそからきたもんが、なんじゃ知(し)らんとこの蟹(かに)を食(た)べたところ、たちまち腹痛(はらいた)を起(お)こした。通(とお)りかかった山(やま)のもんがほれを見(み)付(つ)けて箸蔵寺(はしくらじ)へかつぎ込(こ)んだ。坊(ぼう)さんがありがたいお経(きょう)をあげると腹痛(はらいた)は治(なお)ったそうな。

また、寺(てら)のお堂(どう)でおこもりしてお通夜(つや)するもんも少(すく)のうなかった。

ところが、真夜中(まよなか)に大(おお)けな音(おと)がしたり大風(おおかぜ)が吹(ふ)くような音(おと)がした。時(とき)には不(ぶ)気(き)味(み)な声(こえ)がしたそうな。真面目(まじめ)に信仰心(しんこうしん)を持(も)たんと、ひやかし半分(はんぶん)におこもりするとけったいなことが起(お)こったそうな。

おーしまい。

◆注釈

【ほれ】それ