精進料理

「精進料理」のお話-菩提心9号 (H15.3.21)より-

○はじめに

昨年の連続ドラマ「ほんまもん」を見て、多くの方が精進料理に興味を持たれたようです。箸蔵寺に対するご質問でも、もっとも多い精進料理。今回はこの精進料理についてのお話です。

○精進料理とは

一般的に精進料理とは、肉や魚を使わずに、野菜や果物や海草などを用いてつくられた料理を指します。ただし、野菜の中でもニラ、ネギ、ニンニクなど、臭いがきつい食材は使いません。また香辛料など、刺激の強い物もあまり用いない約束になっています。

精進料理は鎌倉時代の禅宗で確立され、調理方法から食事の作法に至るまで細かいルールが出来上がりました。
例えば、道元の『典座教訓(てんぞきょうくん)』には、

・五つの調理法(生、煮る、焼く、揚げる、蒸す)を用いなければいけない

・五つの味付け(甘い、辛い、すっぱい、苦い、塩辛い)をしなければいけない

・五つの色(赤、白、緑、黄、黒)を使った献立をつくらなければいけない

・素材は余すところなく使わなければいけない

など、本当に細かいルールがあります。現在その全てのルールを実践しているところは数少なくなっています。

○精進の心

次に、精進料理の「精進」の意味についてご紹介します。「精進」には、「物事に精魂を込めて一心に進むこと」という意味があります。また、仏教的には「仏さまの教えを一生懸命守ること」という意味を持っています。ですから、精進料理は、ただの菜食主義とは異なり、仏教の教え、特に「殺生」や「いのち」についてあらためて真剣に考え直すための料理なのです。

○「いのち」について考える

多くの方々は「精進料理は殺生をしないための料理」と考えられているのではないでしょうか?しかし、本当はそうではありません。仏教の教えでは「草木や国土など、心がないと言われているものにもいのちはある」と説かれています。ですから、野菜や果物を食べてもいのちを奪っているのです。
それでは、精進料理に肉や魚を使わない理由はいったい何故なんでしょうか?

一.「死」を知ること

精進料理で、肉や魚を使わない理由の一つは、動物や魚は「死」をはっきりと感じさせるところです。野菜は包丁で切っても暴れることはないし、切られる瞬間、悲鳴を上げることもありません。これに対し、動物や魚は今まで動いたり、鳴いたり、息をしたりしていたものが、「死」によって全く動かなくなるわけですから、私たちはその「死」をはっきりと感じとれるのです。ですから「精進料理では動物や魚を使わない」とはっきり言うことによって、私たちが普段いのちを奪って生きていることを思い出すきっかけになるのです。

ただし、肉や魚を食べないと言うことは、いのちの大切さを知るきっかけにすぎません。先ほど述べましたように、野菜にもいのちがあるからです。ですから「精進料理を食べたから殺生をしなかった」と考えるのではなく、もう一歩進んで、「野菜もいのちがあるんだな」ということに気づくことが大切なのです。そして「私たちは生きるためにはいのちを奪わないと生きていけない存在である」ことを知り、全てのものに感謝することが大切なのです。

二.ムダな栄養はいらない

また、精進料理が肉や魚を使わない理由は、自分が生きていくために必要最低限の栄養だけをとるためです。肉や魚は栄養満点なのでたくさんのエネルギーを生み、必要以上に精力がつきすぎると考えられています。同様の理由で、野菜の中でも精力のつきすぎるニンニクやニラは精進料理のメニューから外されているのです。

このように、精進料理に肉や魚が入っていない理由は、私たちがたくさんのいのちを奪って生きていることに気づき、自分の欲に任せて必要以上のいのちを奪わないように生きることをわからせるためであるといえます。

ですから、ご家庭でも、たとえ肉や魚を使っていても、つくる側が素材を大切に扱って料理をし、食べる側が感謝を込めて残さずに食べるならば、それは広い意味での精進料理の心だと思います。今回の精進料理のお話が「いのちの大切さ」を思い出すきっかけになれば幸いです。

○おわりに

近年、欧米スタイルの食生活の浸透や、その他の原因で肥満や成人病の増加している中、素朴でシンプルな精進料理が健康食としても見直されてきています。箸蔵寺でも精進料理を作っていますのでぜひご来山ください。

箸蔵寺の精進料理には禅宗のような厳しい作法はありません。私たちが生かされていることを思い出し、感謝を込めて食べて頂ければ結構です。箸蔵山の自然を楽しみながら、精進料理を味わってみてはいかがでしょうか?
(現在は、精進料理の受付は休止しています。)

また、精進料理についてのご質問、ご感想などありましたら、お気軽に当山までおたずねください。

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