阿字のお話-真言宗のお墓とお位牌-

仏教には色々な宗派があり、宗派によってお墓やお位牌に特徴があります。

真言宗のお墓やお位牌の特徴は、戒名の上に梵字が入っていることです。
梵字とは、古代インドの言語、サンスクリット語の文字です。
この梵字の中で、お墓やお位牌に書かれている梵字は、ほとんどが「阿(ア)」という文字です。
(小さなお子さんの場合や僧侶の場合には例外もありますが。)

 

では、真言宗のお墓やお位牌のには、なぜ阿字が書かれているのでしょうか?

阿字は、日本の五十音の「あ」、アルファベットの「A」と同じく、梵字の一番最初の文字です。
しかし、梵字には、五十音やアルファベットにはない、大きな特徴があります。
「あ」や「A」は、文字自体に意味はありませんが、梵字はその文字ごとに、それぞれの意味(字義)を持っています。

阿字には、「本不生(ほんぷしょう)」という意味があります。
阿は最初の一文字ということから、すべての根源本質を表し、それは、不生不滅であるという意味です。

もう少し分かりやすい説明にチャレンジしてみると、「本不生」は「本より生ぜず」、つまり、元々生まれてもいないという意味です。

ここで大切なことは、「根源」は「始まり」とは異なるということです。
「始まり」ならば「終わり」があります。
だから、人は一回生まれてしまった以上は必ず一回死ぬことになるのです。

しかし、生まれていないものは死ぬこともありません。
つまり、本不生は、生まれたり死んだりすることを離れた全ての根源生み出される元)不変の世界を表しています。

これこそが密教の説く真理、悟りの世界です。

また、密教では、仏様を「種字(しゅじ)」という、梵字一文字で表すことができます。
不動明王さまの種字「カン(カンマン)」が有名ですが、今回のテーマの阿字で表される仏さまは大日如来様です。
大日如来様は密教の根本の仏様であり、万物の根源、宇宙そのものを表すからです。

このようなことから、真言宗では、戒名の上に阿字をつけることによって、亡くなった方が本来の世界に還っていったこと、仏そのものになったということを表しています。

「阿字の子が 阿字のふる里立ち出でて また立ち返る 阿字のふる里」

という句がありますが、これも、「生み出されたいのち」が「生み出される元」に還っていったことを表しているといえます。

本来、密教の教えの中心の部分は、学問的に理解するものではなく、瞑想や実践によって感得していくものです。
今回のようなテーマは宇宙観、世界観にまで繋がっていくものなので、言葉だけで伝わるとは思っていませんが、何かの手がかりとなれば幸いです。

(追記)それでも言葉で、「生み出されたもの」から「生み出される元」に還るという考え方を説明するとき、公式サイトの寺報にもアップしていますが、
粘土で作ったキリンが自分であるとした場合、私はキリンだと思えばいつか形が崩れてしまうけれど、私は粘土だと思えば、キリンになったりゾウになったりしながら形を変えて生み出され、そして元に戻っていくという存在であることに気付く
という例えを用いたりします。
もちろん粘土自体も物質なので厳密には異なりますが、何となくイメージを湧かせるお手伝いが出来れば幸いです。